XRには時間拡張の可能性が秘められてる #XR創作大賞

はじめに

この記事は第一回XR創作大賞向けの記事です。

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これまでのXR技術では、VRやARなどの空間に関する特徴に着目されてきたが、ここでは新たに、時間拡張的な側面でXR技術の未来・可能性やそれを支えるXRシステムについて想像してみた。

実質的に時間拡張が可能になった未来

VR空間で利用可能な分身AIの発明により、ヒトは現実やVR空間で同時に複数の場所で存在が可能になり、1人あたりの実質的活動時間は24時間を超えるようになった。

VR空間での活動が増えた未来では、ヒトは、VR空間で、本人そっくりのアバターや獣耳美少女アバターなど所有し、アバターを直接操作したり、操作自体を分身AIに任せたりできるようになった。 分身AIは、VR空間において、複数の場所で同時に存在したり現実時間の何倍もの速さで活動したりすることが可能である。 分身AIが活動することで得られる情報から経験の本質を抽出し、本人へ効率的な情報のフィードバックが行われる。

このように、ある経験を獲得するために必要な時間が大幅に短縮され、本人は短縮された時間分を他の活動に充てることができる。現実の本人とVR空間での分身AIが活動することで、本人がなんらかの体験を経験するための時間が実質的に拡張されたといってもいいだろう。

未来のVRシステム

では、上のような未来ではどのようなVRシステムが社会に普及し影響を与えているのだろうか。VR空間と接続するための入出力システム、VRシミュレーションシステム、そのシステムが収集する情報の行方に分けて想像したい。

入力システム

まず、VR空間でアバターを操作するために、現実での入力操作が必要である。入力システムとしては、複数カメラによる姿勢推定や服の繊維に埋め込めるくらい小型化された複数の位置計測デバイスが使われるようになり、 室内では複数カメラによる位置トラッキング、外出時には、位置トラッキング対応の服を着るなどの使い分けがされるようになるだろう。 また、小型化された入力デバイスは、手足などの身体パーツの位置だけではなく、筋電や音声、脳波などもトラッキングできる。

出力システム

出力システムとしては、視覚・聴覚刺激を与えるためには、グラス型のXRデバイスや無線イヤホンが利用され、現実とは異なる場所に存在するように感じたり、現実空間の物体にバーチャルな視覚・聴覚情報を付与されたりするようになる。

また、触覚や力覚を生み出すための、服の繊維に埋め込めるくらい小型化された神経を直接刺激するデバイスが利用される。

味覚や嗅覚については、基本五味や代表的な匂いに対応した基本ペースト食を組み合わせることで様々な味や匂いを実現するフードプリント技術が開発された。 その食べ物をXRグラスに通して見てみると、美味しそうな料理の見た目で上書きされる。現実の料理に味は劣るかもしれないが、VR空間での食べ物受け渡しや、一緒に同じ料理を食べることができるといった体験ができる。

シミュレーションシステム

VRシミュレーターとして汎用型デスクトップPCが使われるようになった。入力システムからの操作情報を受け付け、XR空間の3D演算を行い、演算結果をXRグラスなどの出力デバイスに返すような役割を果たす。

VRシミュレーターについては、複数のHMDなどのVR入出力装置が一つのPCに接続可能になった。また、一家に一台の高性能な汎用型デスクトップPCや公共Wi-Fiのような公共XR演算装置が普及し、外出時にもVR空間にアクセスできるようになった。

VRシステムが収集する個人情報の行方

このようなVRシステムが普及した結果、ヒトは常に位置や音声、脳波がトラッキングされるようになり、このトラッキング情報はVRシミュレーションを実現するためだけの情報としてだけではなく、ヒトの振る舞いを解明するための情報として扱われるようになる。VRシステム普及の黎明期では、このような究極の個人情報についての厳密な取り扱いが決まっておらず、各VRプラットフォーマーはそれぞれの基準であまり目立たない形で大量のトラッキングデータを収集していた。 ずさんな個人情報の取り扱いにより、足元をすくわれるプラットフォーマーが出現するなか、適切な匿名処理と大量トラッキングデータの効率的な収集に成功したプラットフォーマーが次世代の情報インフラを握ることになるだろう。

VRシステム普及後のVR空間における汎用型AIの実現

こうして、VR黎明期に大量のトラッキングデータを獲得したプラットフォーマーは人間の外側の振る舞いのみを模倣し中身のアルゴリズムはあまり気にしないという考え方で汎用型AI用ソフトウェアの開発に成功してしまう。 この技術はAIのハードウェア面を考慮する必要がないVRアバター技術と親和性が高く、個人の分身AIのために利用されるようになった。

分身AIからの効率的なフィードバック技術と例

VR内での汎用型AI技術の実現により、本人の現実やVR空間の生活で取得できる身体位置や音声、脳波などのトラッキング情報からその人の本質を抽出し、VR空間で新たな身体を獲得した分身AIを構築できるようになる。

この分身AIはまさに本人の分身として活動し、簡単な会話や身体の伴うコミュニケーション、遊び、技術習得、仕事などを肩代わりしてくれる。そして、分身AIが獲得した経験は適切なタイミングで本人に効率的にフィードバックされる。

フィードバック技術の例として、経験の要約を視界のオーバーレイに文字として表示したり、経験の重要な場面をVR空間で再生したり、分身AIの経験に基づいた意思決定の補助をしたりすることが考えられる。

このような様子をA君とB君のやりとりを通してみていきたい。

簡単なコミュニケーションの例

A君がVR空間でフレンドのB君と他愛もない話をしている最中に最近気になっているCさんからお誘いが来る。A君は自身の分身AIをこっそりとその場に残し、A君本人はCさんがいるVR空間へ遊びに行くといった場合が想定される。また、現実のA君は睡眠をとり、VR空間でのA君の分身AIはB君の悩みや愚痴や趣味の話を聴くなどのフレンド付き合いをしてもらうといった場合もコミュニケーションの例として考えられるだろう。

上の二つの例では、簡単な会話や体の伴うコミュニケーションではA君が中に入っているかどうかを会話相手であるB君は簡単には見分けることができないが、B君はA君の存在感を感じながらある程度の満足感があるコミュニケーションを経験することができる。

A君の分身AIが経験したコミュニケーション内容は要約され、B君との次の会話の直前や最中に要約が視界のオーバーレイに文字として表示されたり、A君が寝る前など適切なタイミングで経験の重要な部分をVR空間まるごと再生されたりするなどの方法でフィードバックされる。

このように、同時存在が可能になることで、VR上でより多くの人と交流ができたり、睡眠時間を犠牲にせずにしたりして、フレンドの好感度を高めることができる。

意思決定補助の例

新しい趣味を見つけてたい場合があるかもしれない、現実のA君を身体的特徴や快楽受容の脳の特性を知った分身AIが代わりに様々なゲームやスポーツを体験することで、A君本人がどのような遊びのどんなタイミングで楽しさを感じる可能性があるかを予測し、A君に適したゲームやスポーツなどの新しい趣味を提案してくれる。「何か面白いことないかなぁ~」と考えながら退屈な時間を過ごすことや数多のゲームの中から選んだものがクソゲーだったみたいな場合が減るかもしれない。

将来の自身の健康状態を知ることができるかもしれない。現実の何倍もの速さで進むVR空間では、A君の将来の姿を手軽に確認することができる。現在のA君の食生活や運動習慣に基づいた将来の健康状態を知ることで、現在の環境を変える意思決定が可能になるかもしれない。

効率的な訓練方法の提案の例

技術習得が個人に最適化された訓練方法の提案がされる例 現実のA君の身体的特徴や癖に基づいたアバターを用いて、現実時間の数千倍の速さでスポーツの練習をしたり、運転の練習をしたりする。そのアバターAIによるシミュレーションの結果、A君個人に最適された訓練方法を提案することできる。これにより、現実のA君が様々な試行錯誤をする時間がほとんどなくなり、新し技術を習得するのに必要な時間は大幅に短縮されるだろう。

VR空間での仕事の例

VR空間での仕事も増えてきた。主な仕事に、電子データ売買やプレゼンテーション、ミーティングなどが挙げられる。機械的な作業は分身AIに任せ、質問対応や積極的な意見が求められるときには、分身AIから本人へ通知をおくり、アバターの中に入ることで対応するようになる。分身AIが機械的な作業をしているあいだ、本人は趣味に没頭したり、睡眠したりすることができるだろう。

まとめ

このように、分身AIが経験した時間が圧縮、エッセンスの抽出がされて、効率的に本人にフィードバックされる。 本人が経験した実質的な時間は 1日24時間 - 睡眠時間 + (分身AIの活動時間 - フィードバックを受ける時間) × アバターの数 となり、24時間以上となる。 VRには、目の前にある現実とは異なる現実を体験できるといった空間的拡張性だけではなく、実質的時間拡張の可能性が秘められている。